名古屋高等裁判所 昭和29年(う)1152号 判決
原判決挙示の証拠によれば被告人は原判決認定の如くきぬ川なる屋号を以て待合料理営業を行つていたが、被告人の妻尾崎ふみ及びその姉丹羽きぬと共謀の上塚本ヒサヨ等十一名の婦女との間に夫々同女等に売淫させることを内容とする契約をしたことを認定するに十分である。論旨は被告人は右ふみ及びきぬが塚本等十一名より同女等が右きぬ川において売淫をした部屋代を徴収することを容認したに過ぎないものであつて、同女等に売淫させることを内容とする契約をしたものでない旨主張するけれども、前示証拠によれば被告人は前記の如く待合料理店を経営し、被告人の妻ふみ及び同人の姉きぬをして右営業を為さしめていたこと、右きぬ川において塚本以下十一名の婦女が原判示別表の通り不特定の客をとり売淫していたこと、右ふみ、きぬにおいて客の要望があつたときは塚本等十一名の婦女に連絡し、かつ衛生器具、寝具等を提供して売淫の準備をして同女等が客と売淫することを斡旋したこと、同女等が客と売淫して得た料金中一定金額(一時間につき五百円位、一泊につき一千円位)を同女等に配分し、残額を部屋代名下に取得したこと等を認めることができるのみならず、被告人の検察官に対する各供述調書によれば被告人自ら当初雇入契約の際婦女と面接してその反省を促した後、同女等をして売淫することを承諾せしめて契約をしたことを認め得るから、被告人等は共謀の上塚本等十一名の婦女との間に同女等をして売淫をせしめる契約をしたことは明らかである。又論旨は右婦女等が売淫したのは同女等の自由意志によるものであるから、本件勅令第九号第二条の「婦女に売淫させることを内容とする契約」に該当しないというにあるが、論旨の如く売淫自体が婦女の自由意思によると否とを問わず、前説示の如く婦女に売淫させることを内容とする契約を締結したことは明らかであるから論旨は理由がない。次に本件勅令第九号第二条が違反者を一年以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する旨規定していることは所論の通りである。然れども本件勅令第二条が婦女に売淫させることを内容とする契約を為すことを処罰する理由は風儀及び衛生を確保する為売淫行為の絶滅を期すると共に、婦人の人権を擁護する目的を有することにあるから、本条違反罪の法益は各婦女であり、犯罪は各婦女毎に成立するものと解するを相当とするのであつて、営業犯の如く包括して一罪となるものでないから、原判決が併合罪として処断したのは正当でありこの点においても論旨は理由がない。
(裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 赤間鎮雄)